シンポジウム「対話型論証は授業と学生の学びをどう変えるか―高校・大学での取組から―」を開催しました(2/22)

 2月22日(日)、TCU Shibuya PXU(東京都市大学渋谷パクス)にて、シンポジウム「対話型論証は授業と学生の学びをどう変えるか ―高校・大学での取組から―」を開催しました。

 はじめに、京都大学大学院 教育学研究科の松下 佳代教授より開会挨拶と趣旨説明があり、対話型論証の考え方や教育現場での実践状況、ならびに導入にあたっての課題を紹介しました。また、科学研究費補助金(科研費)のプロジェクトとして進めてきた多様な実践研究を踏まえ、本シンポジウムが対話型論証の効果や課題を共有し、参加者とともに議論を深める場としたいとの所感を述べました。

松下 佳代教授による趣旨説明の様子

 
 続いて、計6名の登壇者が、事例紹介を行いました。
 北海道大学 高等教育推進機構の田中 孝平助教は、「対話型論証が及ぼす高大接続へのインパクト:高校における取組」と題して事例紹介を行いました。高槻高校GLコースをはじめとする高校での実践事例を通して、対話型論証を用いた学習が教科理解や学習者の思考の可視化に寄与する一方、活用実感には個人差があることを示しました。これらの結果から、対話型論証の力を高校段階だけで完結させるのではなく、大学教育においても継続的に育成していくことの重要性を指摘しました。

田中 孝平助教による事例紹介の様子

 
 新潟大学大学院 医歯学総合研究科の丹原 惇教授は、「チームで実践するアカデミックライティング教育:対話型論証による教員間共通認識の形成」と題して事例紹介を行いました。歯学部初年次・2年次教育におけるアカデミックライティング科目の実践を通して、対話型論証モデルとルーブリックを用いた分析・評価が、学生の論理的思考力とレポートの質の向上に寄与していることを示しました。また、教員がチームで授業を運営し、評価基準を共有することで、教員間の共通認識形成と教育の質保証につながる点を強調しました。

丹原 惇教授による事例紹介の様子

 
 藍野大学 医療保健学部の杉山 芳生講師より、「初年次教育から多職種連携教育への対話型論証の活用」と題した事例紹介がありました。初年次教育におけるアカデミックライティングと対話型論証の学びを、多職種連携教育へと接続する実践事例を通して、論拠に基づく対話が医療現場に求められる協働的問題解決力の基盤となることを示しました。一方で、対立意見に対する心理的抵抗感などの課題にも触れ、対話を深めるための授業設計や支援の工夫の必要性を指摘しました。

杉山 芳生講師による事例紹介の様子


 山梨大学大学院 総合研究部 生命環境学域の大槻 隆司准教授より、「対話型論証思考を創発に活かす:山梨大学における取組」と題した事例紹介がありました。全学共通初年次教育科目「創発PBL」において、学生が将来の社会を自分事として捉え、他者との対話を通して考えを深めるための、対話型論証モデルを用いたピアレビュー中心の授業設計が紹介されました。実践を通じて論理的に考える意識の向上が一定程度見られた一方、論拠の浅さや学修内容の統合を意識する場の不足といった課題も示され、今後は他科目との接続を意識した改善を進めていく方針が述べられました。

大槻 隆司准教授による事例紹介の様子

 
 東京都市大学 教育開発機構の伊藤 通子教授は、「イノベーション教育で探究を深める対話型論証:東京都市大学の事例」と題して事例紹介を行いました。大学院科目におけるPBL型授業の実践を通して、対話型論証を学修プロセスに組み込むことで、学生が自分事として社会課題を捉え、専門性を生かした説得力ある提案へと発展させていく過程を示しました。対話型論証は、異分野協働や問題の再定義を促し、学生の論理性、自律性、将来の実践につながる学びを支える有効な枠組みであることを強調しました。

伊藤 通子教授による事例紹介の様子

 
 新潟大学 教育基盤機構の斎藤 有吾准教授より、「対話型論証の活動で生成AIは活用可能か:新潟大学『生成AI活用実践演習』における取組」と題した事例紹介がありました。対話型論証の学習場面において生成AIを対話の相手(仮想的な他者)、論証構造の整理・可視化、論理の妥当性・健全性の検証という三つの役割で活用する試行的実践を紹介しました。生成AIは学習を深める支援ツールとして一定の有効性を持つ一方、教育目標や学習成果に照らした慎重な活用設計の必要性を指摘しました。

斎藤 有吾准教授による事例紹介の様子

 
 その後、「対話型論証による学びの質をめぐって」と題して、松下教授による指定討論が行われました。対話型論証をめぐる「知識はどこにあるのか」「対話はどこで成立しているのか」「型はめ教育になっていないか」という論点を軸に、各事例を横断しながら学びの質を高める条件を整理しました。松下教授は、学習者自身の問いや感情を起点とし、専門知識と他者との真の対話を通して結論を深化させていくことが、対話型論証を形骸化させないために重要であると指摘しました。

 指定討論に続いて、登壇者全員による全体ディスカッションが行われ、「対話型論証が型はめ教育に陥らないために何が必要か」を中心テーマとして意見交換を行いました。問いに伴う感情の動きや専門知識との結び付き、他者との真の対話、教員の介入やフィードバックの在り方などが挙げられ、段階に応じた「型」と「型破り」の往還の重要性を共有しました。最後に、生成AIを含む新たな対話の相手をどう位置付けるかについても議論し、対話型論証の今後の発展可能性を確認する形でシンポジウムを締めくくりました。

全体ディスカッションの様子

 TCU Shibuya PXUでは、今後も新たな知見や交流の場を提供するイベントを企画してまいります。今後の展開にご期待ください。

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